芦田均、皇室への要望

 午後自動車で葉山御用邸に伺候。三時から約一時間拝謁した。
 私は
 (一)宮内府長官に田島を御嘉納下され有難く御礼申し上げ、(二)侍従長については現在者を据置くことのご意嚮を拝したが、矢張りこの際とりかえることが内外に好印象を与えると存じますから後任に三谷隆信を御認め願たいと申し上げた。
 之に対し陛下は、三谷は知っている、然し大金は当分御用掛りとして残したい、又宮内府長官と同時でないことを望む、少し遅れて発表したいと仰せられた。私はそれで結構で御座いましょうと申し上げた。式部寮長の松平は留任させたいと存じますとも申上げた。
 (三)皇室の内部のことを言上して畏入りますが(イ)皇室に於いても一家団らんの御出来になるよう御住居を御考え願度い。赤坂離宮へ御移り願えないでしょうかと申したら、住居の設備がないと常に同居することが六ヶ敷いと仰せられた。
 (四)皇太子殿下の御教育も昔風をすてて自由奔放な教育を御願いしたいと申上げた。陛下は具体的にはどうすればよいのかと御反問があった。私は、率直に申せば芦田も詳しいことは承知致しませぬ。然し穂積は更迭させることを希望致しますと申した。陛下は此点には何も御答えはなかった。
 (五)赤坂離宮については生活に不自由だし、且つ費用もかかるので矢張り当分は現在の御文庫が住心地がよい、欲を言えばもう二部屋あると便利だと仰せられた。私は今の御住居は如何にも簡素に過ぎて恐縮に存じますと言上した。

芦田均日記』(鶴見俊輔中川六平編『天皇百話』所収(390-391p))

4480022899天皇百話〈下の巻〉
鶴見 俊輔 中川 六平
筑摩書房 1989-04

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