天皇退位についての田島からの報告

 八月二十九日、予ての約束により宮内府長官田島君が午後七時、外相官邸に来訪。
 田島君(以下Tと記す)は御退位問題について自分は白紙でいると言った(私も同じであると答えた)。然し宮仕え三ヶ月にして自分は天皇が退位の意思なしと推察している ー 然しそれは自己中心の考え方というのでなく、苦労をしても責任上日本の再建に寄与することが責任を尽す途だと考えていられる如く見える、又、色々考えて見ると周囲の情勢は退位を許さないと思う、と言う。


 T氏の言う周囲の情勢とは
 a、退位によって帝政の維持が容易になるとの見解は当たらない、悪くすると退位のために帝政が動揺するかもしれない。
 b、摂政となるべき適任者がないのみならず皇太子は余り若年である。
 c、Scapが之を許すかどうか。


 T氏は更にいう ー 
 退位問題についてはScapの意嚮よりも先きに陛下と話して貰いたい。そして次の三点に注意してほしい。即ち
 (イ)退位を極るにしても御留任を願うにしてもこの問題は四大政党の一致の態度で行って貰いたい。
 (ロ)新聞雑誌は当分御退位問題を取扱うだろうが、横田教授の如き論のためにG・H・Qが直ちに日本の輿論と考えることのないよう充分説明して貰いたい。
 (ハ)総選挙が行われても退位、留位の問題はCampaignに利用しないよう協定して貰いたい。


 私は以上の問題を全体として賛成であるから実現すると約束した。それから後は雑談に終ったが、田島君は今夕も亦天皇は私心のない、表現人そのものであり、職についた人間は信頼して御使いになると言うた。更に高松宮については今後も心配だ、何しろ頭がよくて********と述べた。


芦田均日記』(鶴見俊輔中川六平編『天皇百話』所収(392-393p))

4480022899天皇百話〈下の巻〉
鶴見 俊輔 中川 六平
筑摩書房 1989-04

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