読売新聞の退位報道に対するシーボルトの工作

この日、読売新聞が退位の可能性を示唆する記事を掲載

 読売新聞が十一月一日のトップ記事として、吉田首相が度々天皇秩父宮殿下を訪問したのは、退位と直接の関連がある、ということを報道した。真偽をたしかめるために、私の友人で、総司令部と宮内庁との間の連絡官だったテリー・寺崎のところへ行ってみた。彼は、その記事は全く思惑にすぎない、と確信をもって述べ、さらに、だがこのような記事は、天皇の退位の可能性をつくり出すおそれがあるので、甚だ危険きわまるものだと思う、と語った。
 これに同意しつつ私は、この重大な問題について特に立場を明らかにすべき時期がきた、と寺崎に語った。「全く私の個人的な資格でいうならば、退位は政治的な破滅となるだろう。これこそ、ワシントンの立場でもあると思う。そしてさらに、最高司令官もこれと同様の意見だと信じて差支えない」と私は述べた。彼は、容易ならざる様子で、私のいうことに耳を傾けていた。この若者のように見える老人の知的な顔つきは、宮廷の伝統と、総司令部の改革との間に身を置く、大きな責任のために、それでなくてもすでに容易ならざる様子をただよわせていたのだ。もしもお望みなら、この意見を天皇および側近に伝えても差支えない、と私は付け加えた。

W・J・シーボルト『日本占領外交の回想』(141p)

B000JABXLG日本占領外交の回想 (1966年)
野末 賢三
朝日新聞社 1966

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