アメリカ紙の記者に見た地方巡幸

『シカゴ・サン』紙の特派員マーク・ゲインの『ニッポン日記』より

 ちょうどそのとき、私は天皇を(われわれは彼のことを「チャーリイ」と呼んでいた)よく見ることができた。彼は小柄で背は五フィート二インチばかりもあろうか、この日は灰色の縞の下手くそな仕立ての背広を着、ズボンは二インチほども短かった。顔面にはおりおりハッキリした痙攣が現われ、ひっきりなしに右肩をぐいと引く癖があった。歩くときは、右足を少し外側に踏み出すが、その足はまるで自分の意のままにならないかのようだった。彼は明らかに興奮し、平静さを欠いていた。そして、自分の手や足を持ち扱いかねているようだった。
 (中略)
 いやな仕事を無理矢理やらされている疲れた悲愴な男。そして自分に服従しない声音や顔面や四肢をなんとか支配しようと絶望的にもがいている男。これが天皇のありのままの姿だった。

マークゲイン著 井本威夫訳『ニッポン日記』(鶴見俊輔中川六平編『天皇百話』所収(313ー314p))

4480022899天皇百話〈下の巻〉
鶴見 俊輔 中川 六平
筑摩書房 1989-04

by G-Tools