天皇起訴せずの意向

 十月二十九日夜Keenan主席検事と親しい田中隆吉(少将)と会談の際、陛下の問題に関しふれた点左の通り。

一、Keenan帰米の際Truman大統領より陛下は罪状ある時に起訴して差支えなき旨の権限を与えられた由。
二、木戸侯の供述書中に陛下の御考として「独蘇衝突前に英米と戦う方が有利になるべし」との意味の個所を捉え、コミンスカヤ検事(コミンズ・カー)(英)を筆頭とし英蘭ブロックは陛下の訴追を頑強に主張したるもキーナンは当初の了解に反すとて之を拒否し、MacArthur元帥と会談、同元帥の指令により陛下が引合に出さる。木戸、東条、東郷の反対訊問は絶対他に譲らずKeenanが之を引きうけることに決定せる由。
三、Keenanの意嚮としては陛下始め皇后、皇太子が余りに人目につく行動を執らるることは、自分等の苦心を無にする危険ありとて之に反感を抱き居る由。尚Keenanは裁判終了後帰国前に陛下に拝謁し退位問題等にふれる意嚮の如くである。御退位の際には皇后が摂政となられることで充分であると考えているようである。

 註 尚MacArthurは日本国内安定のためにも共産党を抑えるためにも帝制が必要であると確信している。


芦田均日記 第2巻』(27p) 原文は旧かな

4000087525芦田均日記〈第2巻〉/外相から首相へ 連合の模索を挫折
芦田 均 進藤 榮一
岩波書店 1991-10

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